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ヴァイオリンの修理

   

この1週間ぐらい、日本は雨ばかりでうんざりする天気が続き、いい加減に太陽を拝みたいものだ、と思っていたら、今日は大変な暑さになりました。こういう蒸し暑い天候は本当にヴァイオリンに良くありません。

現在私の使っているヴァイオリンは、G線のハイポジションのある場所に来ると非常に音が軋むという問題を抱えています。このヴァイオリンに「スガラボット爺さん」と命名しており、普段は結構やさしく穏やかな音を出してくれるのですが、どうもG線上のあるところでは不機嫌になる。フランス留学時代には、試験の前など「お願い、爺さん、へそを曲げないで~」と頼み込んだものです。ふと思い立ち、「この際だ、スガラボット爺さん、雨も続くし修理に行くか!」と、重い腰をあげて弦楽器工房にみてもらいに行きました。

工房のマイスター(勝手に私の心の中でそう呼んでおります。)に問題点を説明すると、おもむろに問題になりそうな場所を弾いて、「あー、このあたりですねえ。」とおっしゃる。そして、棚からゴム状のぺらっとした物体をヴァイオリンの表板の或る部分にぺろんとおくと、また同じ箇所を弾き始めました。よく家具の転倒や移動を防ぐための防振ゴムをホームセンターなどで目にしますが、それとそっくりな物体を置くだけで、それまでは擦れいた音が澄んで聞こえます。ほんの少しの振動の伝わり方の差で、全く違うヒビキになる。本当に不思議です。こういった軋みのような音を”Wolf”というのだそうです。恥ずかしい限りですが初耳でした。このWolfをなくすには、表の板の厚さを変えるという方法が考えられます。ならば、問題の板の裏をちょっと厚くすればいいじゃないかと思ってしまうのですが、たとえWolfは改善しても他の音色に影響してしまうリスクがあり、そのヴァイオリン固有の音色まで損なう可能性があるのだそうです。結局、選択肢はあまりない、というのが結論でした。スガラボット爺さんは約100歳ぐらいで、ヴァイオリンとしてはそれほど老齢にもあたらないのですが、我が家に来る前にすでに板の裏を削ったり、駒(楽器の中心やや下ぐらいにあり、弦を張るためのかまぼこのような形の薄い板)の高さを調整したり、指板(指を押える部分の下の黒い板)に手を加えられていたらしく、以前に修理したマイスター達もこれで限界というところまでやったのだろう、ということでした。

選択肢として、あえてリスクをとって調整をするか、調整はせずに奏法を工夫することで少しなりとも改善させるか、あるいは、別の楽器にする、しかないと。いやいや、スガラボット爺さんを止める、、、、とても出来るわけがありません。マイスター曰く、こういう欠点も楽器の個性です、と。今の音色は結構気に入っており、音量はあまり出ないのですが柔らかな暖かい音色をしています。これが変わってしまうリスクはとてもとれないと判断し、結局、奏法を少し変えて欠点をカバーする道を選びました。この欠点が克服できるよう、精進あるのみ。

ヴァイオリンだけでなく、楽器はひとつひとつが個性の塊で、驚きに満ちたものです。もし、生の演奏を聴く機会があれば、楽器一つ一つの音色に耳を傾けてみてください。きっと面白い発見があると思います。

 

 

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  • 愛知県出身。東京外国語大学ロシヤ語学科卒業。卒業後商社勤務を経たのちに音楽家に転身したという異例の経歴を持つ。
    2歳半よりヴァイオリンを始めるが15歳で中断。音楽とは一切関係のない生活を送っていたが、退職を決意し、2007年に渡仏。エコールノルマル音楽院(パリ)に入学し、ヴァイオリンをソランジュ・デッサンヌ氏、室内楽を故マリ=ピエール・ソマ氏に学ぶ。
    2011年11月に帰国。2012年2月より東京・大阪を中心に室内楽の演奏活動を積極的に行うと同時に、愛知県にて後進の指導にもあたっている。