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ヴェネツィアでヴィヴァルディを聴く

   

ヴェネツィアといえば、ヴィヴァルディ、ということで、フェニーチェの次は、サン・ヴィダル教会で行われたヴェネツィア室内合奏団のコンサートを楽しみました。

これまた定番の四季。どんな四季が聴けるのか、期待で胸がいっぱいになり、ヴァポレット(水上バス)の吹きっさらしの船上でぶあ~っと深呼吸をします。大分冷たく感じる夜の空気の匂いが何やらワクワク感を更に盛り上げます。

夜9時からのコンサートにも関わらず、隣に座った女の子は8歳。お父様と軽く雑談すると、ピアノをすごく一生懸命習っているらしい。目の前のチェンバロに興味津々の様子です。お父様によれば、鍵盤の白黒がピアノと逆だ、としきりになぜだと疑問に思っているらしい。平日のこんな夜だし、そんなに満員になるのかしらんと思いきや、あっという間に席はうまってしまい、席を探してうろうろするお客様もいました。さすが、ヴィヴァルディの地元だなあ、と感心していると、演奏者たちが颯爽と現れました。

ヴェネツィア室内楽団の面白いところは、ソリストが順番に変わっていくことです。四季も、春・夏のソロと秋・冬のソロをそれぞれ交替して演奏されました。それにしても、こんなに熱い四季は初めてです。とにかく熱い!久しぶりにムンムンのイタリア人をみた気がして嬉しいのなんの。こうでなくっちゃ。正直言うと、数年前に感じたようなイタリア人の熱気のようなものが今回の旅行ではどうも薄れた気がして、一抹の寂しさを感じていたのですが、俄然元気になりました。隣の少女も立ち上がっています。楽器の裏から響いてくる音がとてもよく聴こえます。すごい迫力。チェンバロもあまり聞こえないのではと心配していましたが、とてもバランスよく届きました。教会では音が反響しすぎるためでしょうか、壁に布をはってあり、ちょうど気持ちの良い響きです。

今回の旅行で気付いたのは、この「四季」という曲は、ヴェネツィアだからこそ生まれたのだ、ということです。日本に住んでおられる方々には当たり前かもしれないですが、日本はしっかりとした「四季」があり、あまり意識せずとも季節の移り変わりを色々な形で表現し、生活に反映しています。また、動物や昆虫の鳴き声を聞いて、夏だな、とか秋が来たなあ、などと思うのは日本人くらいらしい。鋭く繊細(だったはず?)な日本人の感性をもってすると、四季を聴いた時になんの不思議もなくすんなりと受け入れられるのはそのせいでしょう。ヴェネツィアは、ご存知の通り海の上の都です。ロンゴバルド族が、続いてフランク族が攻めてきたために、逃げ場を海に求めたことからできた国でした。海に杭を打ち込み木材を敷き、石材を積み土台を作り上げたのです。実際に街に立ってみると本当に不思議な気がします。どうやって杭を打ち込んだのだろう。そもそもどこからそんな木材持ってきたのだろう。重機もない、コンピューターもない。ネットで一瞬に海外の市場に繋がるわけもない。どうやって海の水をせき止めたのだろう。いやいや、想像を絶する工事だったに違いありません。「土地がない」からこそ、春に花が咲き乱れ、ハチが飛び回り、夏には羊飼いの少年がうたた寝をしながらハエを追い払ったり、秋の収穫にわいてみたり、雪がちらちら舞う中で冬の寒さがしみたり、ということは全く当たり前ではないのです。中庭に植えられた樹木や花は咲くことはあっても、見渡す限りの平原で咲き乱れる花や、馬が駆け回ったり、牛が草を食んだり、大地にいっぱい落ち葉が落ちて、雪が積もるという情景は決してない。大地があれば当然目にする自然の情景を、一種の憧れをもって音で観せたのがこのヴィヴァルディの「四季」なのだと思います。そして人間という資源以外に何もない国であったことが、芸術・文化レベルを高めることに繋がったのだろうことが容易に想像できます。益々強力になっていく周囲の大国から同等に扱われるため、また、それ以上に尊敬を勝ち取るには芸術・文化で魅せることが何よりも大事であったはずです。現代でも人間の感じ方はそれほど変化していないはずで、経済力や人口など色々な指標では日本より劣っているはずのフランスという国が日本より世界の中で存在感があったり、人を惹きつけるのは、単なる「金の力」ではなく、文化に対する態度の違いによるのではと思います。日本は文化レベルが低いと言っているわけではありません。むしろ高いと思いますが、あまりにも自分の国の文化について知らなさすぎたり、自信がなさすぎたり、過小評価しすぎです。話がちょっとそれましたが、ヴェネツィアの街全体の美しさはそうすることが防衛のひとつの手段でもあったというのは極端すぎるでしょうか。またそうした空気感の中から音楽も生まれたのでしょう。もし、四季を聴く機会があるのでしたら、是非、ヴェネツィアという街にいると想像しながら聴いてみてください。きっと感じ方がもっと違ってくるでしょう。日本の素晴らしい自然がこれ以上壊されて、何も感じなくならないことを祈りつつ、窓からの秋の気配を楽しむことにしましょう。

 -音楽にまつわる話


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  • 愛知県出身。東京外国語大学ロシヤ語学科卒業。卒業後商社勤務を経たのちに音楽家に転身したという異例の経歴を持つ。
    2歳半よりヴァイオリンを始めるが15歳で中断。音楽とは一切関係のない生活を送っていたが、退職を決意し、2007年に渡仏。エコールノルマル音楽院(パリ)に入学し、ヴァイオリンをソランジュ・デッサンヌ氏、室内楽を故マリ=ピエール・ソマ氏に学ぶ。
    2011年11月に帰国。2012年2月より東京・大阪を中心に室内楽の演奏活動を積極的に行うと同時に、愛知県にて後進の指導にもあたっている。